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津地方裁判所四日市支部 平成7年(ワ)258号 判決 1999年8月19日

主文

一  津地方裁判所四日市支部平成6年(ケ)第36号不動産競売事件について、同裁判所が平成7年8月17日に作成した配当表のうち、被告の債権額2億6,731万6,110円に対し9,628万0,616円の配当額を定めた部分のうち2,129万6,430円を取り消し、右金額を原告に配当する。

二  津地方裁判所四日市支部平成6年(ケ)第36号不動産競売事件について、同裁判所が平成7年12月19日に作成した配当表のうち、被告の債権額3億0,504万4,295円に対し1億8,105万7,616円の配当額を定めた部分のうち2,270万9,330円を取り消し、右金額を原告に配当する。

三  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文と同じ。

第二  事案の概要

一  争いのない事実等

1  原告(前所轄庁四日市税務署長、現所轄庁名古屋国税局長)は、訴外医療法人稔会の租税債権を徴収するため、平成6年1月14日、同医療法人所有の別紙物件目録<略>の各不動産(以下「本件各不動産」という。)を差し押さえ、同日差押登記を経由した。

2  被告は、本件各不動産に設定した根抵当権(極度額2億5,000万円、平成5年1月13日登記)に基づき、津地方裁判所四日市支部に対し、右根抵当権実行としての競売の申立てをし(同支部平成6年(ケ)第36号不動産競売事件。以下「本件競売事件」という。)、同支部は、平成6年3月28日、本件不動産について競売開始決定をした。

3  原告は、同支部の平成6年5月25日付け本件競売事件の続行決定を受けて、平成6年6月8日、滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律20条(17条、10条3項準用)に基づき、交付要求をした。

4  本件競売手続において、まず、別紙物件目録<略>三の不動産が売却され、津地方裁判所四日市支部は、平成7年7月25日の配当期日において、別紙一のとおり、売却代金2,975万円から手続費用160万0,384円を除いた配当すべき額2,814万9,616円につき、<1>被告に対し、724万3,786円を、<2>原告に対し、2,090万5,830円をそれぞれ配当する内容の配当表(以下「第1回配当表」という。)を作成し、同配当表どおりに配当を実施した。

右配当は、本件各不動産を差し押さえた原告の国税が四日市県税事務所、松阪市及び四日市市の地方税に先だち(国税徴収法12条)、他方、被告の私債権がその根抵当権設定登記の日(平成5年1月13日)に先行する日を法定納期限等とする四日市県税事務所の1,464万4,400円、松阪市の2万0,650円及び四日市市の624万0,780円の各地方税におくれ(地方税法14条、同条の10)、かつ、右根抵当権設定登記日より後を法定納期限等とする原告の国税に先だつ(国税徴収法16条)から、同法26条の規定を適用して、<1>国税及び地方税の法定納期限等と根抵当権設定登記の日の先後を比較し、被告の根抵当権設定登記の日に先行する日を法定納期限等とする四日市県税事務所の1,464万4,400円、松阪市の2万0,650円及び四日市市の624万0,780円の各地方税の合計2,090万5,830円に相当する金額を国税及び地方税等に充てるべき金額の総額、その余を私債権に充てるべき金額の総額とし(同条2号)、<2>国税及び地方税等相互間では、本件各不動産につき滞納処分による差押えをした原告の国税に全額を充て(同条3号、12条)、<3>私債権相互間では被告が他の私債権者に優先するから、被告の債権に全額を充てる(同条4号)との処理をしたものである。

5  次いで、別紙物件目録一、二、六及び七の各不動産が売却され、津地方裁判所四日市支部は、平成7年8月17日の配当期日において、別紙二のとおり、売却代金9,752万円から手続費用123万9,384円を除いた配当すべき額9,628万0,616円につき、被告に対し、その全額を配当する内容の配当表(以下「第2回配当表」という。)を作成した。第2回配当表は、私債権に優先する公租公課につき優先権を反復して行使することは許されないとの立場から、国税徴収法26条を適用しなかったものである。

右配当手続において優先劣後関係が問題となる各債権は、次のとおりである。

(一) 被告

(1) 債権額 2億6,731万6,110円

根抵当権設定登記日 平成5年1月13日

(2) 債権額 3億0,075万1,210円

根抵当権設定登記日 平成5年2月12日

(二) 原告

(1) 交付要求額 25億0,019万1,800円

法定納期限等 平成5年3月31日ないし平成5年12月24日

(2) 差押登記日 平成6年1月14日

(3) 交付要求日 平成6年6月8日

(三) 四日市県税事務所

(1) 交付要求額 5億8,156万4,400円

(内訳)

イ 平成4年度不動産取得税 1,495万3,900円

法定納期限等 平成4年5月15日

ロ 平成5年度不動産取得税・法人県民税・法人事業税・自動車税 小計5億6,661万0,500円

法定納期限等 平成5年4月15日ないし平成6年2月18日

(2) 参加差押登記日 平成6年1月27日及び平成6年3月1日

(3) 交付要求日 平成6年6月1日

(四) 松阪市

(1) 交付要求額 18万7,440円

(内訳)

イ 平成4年度市県民税 2万0,950円

法定納期限等 平成4年7月10日

ロ 平成5年度市県民税 16万6,490円

法定納期限等 平成5年7月12日

(2) 交付要求日 平成6年6月14日

(五) 四日市市

(1) 交付要求額 2億5,908万9,380円

(内訳)

イ 平成4年度市県民税・固定資産税・都市計画税 小計632万1,580円

法定納期限等 平成4年4月30日ないし平成4年5月31日

ロ 平成5年度市県民税・固定資産税・都市計画税・法人市民税

平成6年度固定資産税・都市計画税 小計2億5,276万7,800円

法定納期限等 平成5年4月30日ないし平成6年5月31日

(2) 参加差押登記日 平成6年2月14日

(3) 交付要求日 平成6年7月8日

6  原告は、右配当期日に出頭して、第2回配当表の記載中、被告に対する配当額を定めた部分のうち2,129万6,430円について異議の申出をし、配当異議の訴えを提起した(津地方裁判所平成7年(ワ)224号配当異議事件。回付により同裁判所四日市支部平成7年(ワ)第258号配当異議事件)。

7  さらに、別紙物件目録四、五、八及び九の各不動産が売却され、津地方裁判所四日市支部は、平成7年12月19日の配当期日において、別紙三のとおり、売却代金1億8,307万円から手続費用201万2,384円を除いた配当すべき額1億8,105万7,616円につき、被告に対し、1億4,647万5,598円及び3,458万2,018円を配当する内容の配当表(以下「第3回配当表」という。)を作成した。第3回配当表は、第2回配当表と同様に、私債権に優先する公租公課につき優先権を反復して行使することは許されないとの立場から、国税徴収法26条を適用しなかったものである。

右配当手続において優先劣後関係が問題となる各債権は、次のとおりである。

(一) 被告

(1) 債権額 2億1,081万8,836円

根抵当権設定登記日 平成5年1月13日

(2) 債権額 9,422万5,459円

根抵当権設定登記日 平成5年2月12日

(二) 原告

(1) 交付要求額 25億9,193万5,100円

法定納期限等 平成5年3月31日ないし平成5年12月24日

(2) 差押登記日 平成6年1月14日

(3) 交付要求日 平成6年6月8日

(三) 四日市県税事務所

(1) 交付要求額 6億0,421万5,300円

(内訳)

イ 平成4年度不動産取得税 1,557万2,900円

法定納期限等 平成4年5月15日

ロ 平成5年度不動産取得税・法人県民税・法人事業税・自動車税 小計5億8,864万2,400円

法定納期限等 平成5年4月15日ないし平成6年2月18日

(2) 参加差押登記日 平成6年1月27日及び平成6年3月1日

(3) 交付要求日 平成6年6月1日

(四) 松阪市

(1) 交付要求額 19万3,740円

(内訳)

イ 平成4年度市県民税 2万1,650円

法定納期限等 平成4年7月10日

ロ 平成5年度市県民税 17万2,090円

法定納期限等 平成5年7月12日

(2) 交付要求日 平成6年6月14日

(五) 四日市市

(1) 交付要求額 2億9,652万3,180円

(内訳)

イ 平成4年度市県民税・固定資産税・都市計画税 小計711万4,780円

法定納期限等 平成4年4月30日ないし平成4年5月31日

ロ 平成5年度市県民税・固定資産税・都市計画税・法人市民税

平成6年度固定資産税・都市計画税 小計2億8,940万8,400円

法定納期限等 平成5年4月30日ないし平成7年5月31日

(2) 参加差押登記日 平成6年2月14日

(3) 交付要求日 平成6年7月8日

8  原告は、右配当期日に出頭して、第3回配当表の記載中、被告に対する配当を定めた部分のうち2,270万9,330円について異議の申出をし、配当異議の訴えを提起した(津地方裁判所四日市支部平成7年(ワ)第369号配当異議事件)。

二  争点

同一の不動産競売事件において不動産が順次売却されてその都度配当がなされ、先行する配当手続で国税徴収法26条の規定による調整が行われた場合において、配当を受けることができなかった国税、地方税等は、後行の配当手続において再び私債権に優先するものとして取り扱われうるか。

(原告の主張)

国税徴収法26条は、租税公課と私債権がいわゆる「三すくみ」の状態となったときに、その調整を図るための一般的な規定であるところ、同一所有者の担保物権についても同一事件で強制換価手続がされるとは限らないし、また、同一事件における強制換価手続においても同時配当がなされるとは限らないから、租税公課の優先権が反復行使されることは当然予測されていたとみるべきである。しかるに、同法は、あえて租税公課の優先権が反復行使されることを許さないとしなかったのであるから、当該配当時にいわゆる「三すくみ」の状態が解消していない限り、同法26条を適用しなければならない。

国税徴収法は、原則として租税公課の優先的徴収権を認め、例外的に別段の定めがある場合に限って私債権が租税公課に優先するとしているところ、同法15条、16条は、質権、抵当権の設定時が国税の法定納期限等より先であった場合に限り、その限度で当該質権、抵当権によって担保された私債権が国税債権に優先するとしているに過ぎない。このように同法が右の範囲を超えて別段の定めをしていない以上、租税公課の一般的優先の原則により、担保権者が不利益を受けたとしても、何ら怪しむに足りない。また、その不利益は、一定の範囲でこれを予測、排除することが可能である。

(被告の主張)

国税徴収法26条においては、その反復的な行使を明らかに禁止していないものの、これを形式的に適用するのは不当である。なぜなら、原告の債権は、本来被告の私債権に劣後するものであったところ、同法によって右私債権に優先する地方税債権が本件各不動産に対する差押え未了であったことで、いわば偶発的に被告の私債権に優先して配当を受けたものである。右偶発的な事項に基づく優先順位の逆転が、これに何ら関係のない被告の私債権に影響を及ぼすべき理由はない。しかも、仮に一括競売が実施されておれば、同法26条の適用に基づき、原告は、被告の私債権に優先する地方税債権額についてその配当金を受領し得るだけであった。にもかかわらず、本件競売事件のように、被告による担保権の実行として開始された1個の競売手続における複数の目的不動産について、一括の実施ではなくたまたま異時競売が実施された場合にまで同条項の反復的な適用を許容することは、異時競売の実施という極めて偶発的な事由によって私債権者の法的利益を著しく阻害する結果をもたらすことになるため、明らかに不当である。

私債権に対する租税債権の公益性による優先権は、国税徴収法において是認されているところではあるが、同法16条によって私債権に劣後する場合のあるとおり、いわば限定されたものである。原告の債権は、同法26条の適用によって、被告の私債権に優先する地方税債権額についてこれを回収した以降には、もはや反復的な右優先権の行使なるものを是認しうる公益性による法的利益及び合理的必要性は何ら見当たらない。

第三  争点に対する判断

同一の不動産競売事件について、不動産が順次売却されてその都度配当がされるなど、配当手続が数次に及び、先行する配当手続で国税及び地方税等と私債権等が競合したことから国税徴収法26条による調整が行われた場合において、私債権に優先するものとして国税及び地方税等に充てるべき金額の総額を決定するために用いられながら(同条2号)、国税、地方税等相互間では劣後するため(同条3号)、現実には配当を受けることができなかった国税、地方税等は、後行の配当手続においても、同条2号(地方税法14条の20第2号)ないし国税徴収法16条(地方税法14条の10等)の規定の適用上再び私債権に優先するものとして取り扱われることを妨げられないと解するのが相当である(最高裁平成11年4月22日第一小法廷判決)。けだし、国税及び地方税は、強制換価手続において他の債権と競合する場合には、別段の規定がない限り、全ての公課その他の債権に優先するものであり(国税徴収法8条、地方税法14条。租税の一般的優先の原則)、国税徴収の例により徴収される公課も、国税徴収法8条の規定の準用により、別段の規定がない限り、私債権に優先するところ、現行法は、国税、地方税等と担保権の設定された私債権との調整を図るために、国税徴収法16条等(地方税法14条の10等)の規定を置いて、私債権が優先する場合を定めているものの、国税徴収法26条を適用したことにより国税、地方税等が再度私債権に優先する結果になることを制限する趣旨の規定を置いておらず、右別段の規定がない以上、租税の一般的優先の原則が適用されると解すべきだからである。被告は、租税公課の差押えの先後、さらに同時配当がなされるか否かという偶発的な事由によって、私債権者の法的利益が著しく害されることを理由に、租税公課の優先権の反復行使を否定すべきであると主張するが、国税徴収法の解釈論上、被告の主張は採用できないこと、右のとおりである。

そこで、本件についてみると、まず第2回配当表に関し、前記争いのない事実等5記載の各債権のうち、(三)四日市県税事務所の内訳イ記載の地方税1,495万3,900円、(四)松阪市の内訳イ記載の地方税2万0,950円及び(五)四日市市の内訳イ記載の地方税632万1,580円の各法定納期限等は、被告の根抵当権設定登記の日(平成5年1月13日)に先行するから、右合計額2,129万6,430円が国税及び地方税等に充てるべき金額の総額となり(同法26条2号)、これは、国税及び地方税等相互間で優先する原告の国税に充てられることになる(同条3号)。

さらに、第3回配当表に関しては、前記争いのない事実等7記載の各債権のうち、(三)四日市県税事務所の内訳イ記載の地方税1,557万2,900円、(四)松阪市の内訳イ記載の地方税2万1,650円及び(五)四日市市の内訳イ記載の地方税711万4,780円の各法定納期限等は、被告の根抵当権設定登記の日(平成5年1月13日)に先行するから、右合計額2,270万9,330円が国税及び地方税等に充てるべき金額の総額となり(同法26条2号)、これは、国税及び地方税等相互間で優先する原告の国税に充てられることになる(同条3号)。

そうすると、原告の請求はいずれも理由がある。

(別紙)物件目録一~九<略>

別紙一

(注) 債権の種類欄の日付は、担保権は設定登記(仮登記)の日、交付要求債権は法定納期限等、配当要求は配当要求の日、仮差押及び差押はその登記の日をそれぞれ示す。

(注) 備考欄の「最後の2年分」は満期となった最後の利息損害金の合計額、「(極)」は極度額、「順位」は公租公課官公署間の順位をそれぞれ示す。

(注) (株)は株式会社、(有)は有限会社、(農協)は農業協同組合、(火)は火災海上保険株式会社、(海)は海上火災保険株式会社をそれぞれ示す。

(注) 順位欄の数字は私債権間の順位を示す。

別紙二

(注) 債権の種類欄の日付は、担保権は設定登記(仮登記)の日、交付要求債権は法定納期限等、配当要求は配当要求の日、仮差押及び差押はその登記の日をそれぞれ示す。

(注) 備考欄の「最後の2年分」は満期となった最後の利息損害金の合計額、「(極)」は極度額、「順位」は公租公課官公署間の順位をそれぞれ示す。

(注) (株)は株式会社、(有)は有限会社、(農協)は農業協同組合、(火)は火災海上保険株式会社、(海)は海上火災保険株式会社をそれぞれ示す。

(注) 順位欄の数字は私債権間の順位を示す。

(注) 順位2番の根抵当権者に対し、平成7年7月25日の配当期日において、金724万3,786円を配当金として交付。

(注) 四日市県税事務所の平成4.5.15付租税債権、松阪市の平成4.7.10付の租税債権及び四日市市の平成4.4.30付、同年5.31付租税債権の合計金2,090万5,830円を平成7年7月25日の配当期日において名古屋国税局に配当金として交付。

別紙三

(注) 債権の種類欄の日付は、担保権は設定登記(仮登記)の日、交付要求債権は法定納期限等、配当要求は配当要求の日、仮差押及び差押はその登記の日をそれぞれ示す。

(注) 備考欄の「最後の2年分」は満期となった最後の利息損害金の合計額、「(極)」は極度額、「順位」は公租公課官公署間の順位をそれぞれ示す。

(注) (株)は株式会社、(有)は有限会社、(農協)は農業協同組合、(火)は火災海上保険株式会社、(海)は海上火災保険株式会社をそれぞれ示す。

(注) 順位欄の数字は私債権間の順位を示す。

(注) 順位2番の根抵当権者に対し、平成7年7月25日の配当期日において、金724万3,786円を配当金として交付。

(注) 順位2番の根抵当権者に対し、平成7年8月17日の配当期日において、金7,498万4,186円を配当金として交付し、配当異議の申出額に相当する金2,129万6,430円を配当留保とした。

(注) 四日市県税事務所の平成4年5月15日付租税債権、松阪市の平成4年7月10日付の租税債権及び四日市市の平成4年4月30日付、同年5月31日付租税債権は、平成7年7月25日の配当期日において、名古屋国税局に配当金として交付。

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